セミファイナル終了後、
疲労しきって歩くこともままならなかった直を伴い、秋山は静かな雰囲気のカフェへと入った。
「大丈夫か?」
「はい。」
か細い声が直の口からもれる。
支えを失うと倒れてしまいそうで、秋山は彼女の隣へと腰をおろした。
「秋山さん、私大丈夫ですよ」
「無理するな。今倒れられたら俺が困る」
「は・・・い」
くすりと微かな笑みを浮かべながら直は自分の頭を秋山の肩へと預けた。
安心感が心の中にあふれる。
いつもさり気なく与えてくれる秋山の優しさが心地よかった。
「秋山さん、ありがとうございます」
「別に…いいよ」
あまりにも素直に礼を言われて、バツが悪くなった秋山はふいと視線をそらした。
その様子を見た直の顔に綺麗な笑顔が広がった。
「私、秋山さんとこうして一緒に入れることがうれしいです」
「……なんだよ、いきなり」
感情のこもった言葉に驚きを隠せない秋山は直へと視線を戻した。
すると彼女からは笑みは消え、かわりに真剣な眼差しが自分を見つめていた。
「どうした?」
「秋山さんは……私がいなくなったらどうしますか?」
「………え?」
突然の質問に秋山は驚きを隠せなかった。
自分の方が直の前から姿を消すことはあってもその反対はありえない…、
秋山はずっとそう思ってきた。
その彼女から出たいわば究極ともいえる問いに秋山は面喰った。
そんな彼をじっと見守っていた直の表情が不意に緩んだ。
「冗談ですよ。秋山さん」
「…はぁ?」
「ちょっと秋山さんの驚く顔が見たかったんです」
ぺろっと舌をだしおどけて見せる直の額を秋山は小突いた。
「やめろよ、そういうの」
「ごめんなさい。」
直は小さな声で謝罪を告げると、再び秋山の方へと自分の体を傾けた。
「しばらく、こうしててもいいですか?」
言いながら直は静かに目を閉じた。
この人とこうして触れ合えるのはもう、最後。
いつの間にか一番大切な人になっていた。
自分は彼に悲しみを与えるようなことはしてはいけない。
悲しい決意を胸に秘めながら、
直は秋山の温かさの中に身をうずめた。
「お前、大丈夫か?」
「……平気です。ちょっと疲れただけ」
気丈な答えとは裏腹な直の様子に秋山の中に不安が過った。
淡雪のように触れると消えてしまうような
儚さを彼女に感じていた。
そんな予兆を表わすかのように外では雨が降り始めた。
涙にも似た冷たい雨が・・・。
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2009.12.20るきあ
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