『私は秋山さんに復讐なんて、してほしくないんです』


モニター越しで見る真摯な彼女の眼差しに胸が痛くなった。
彼女は本気で、自分を救いたいと思っている。
そんなことできる筈もないというのに、いつもいつも彼女だけは諦めない。
秋山という人間の中に眠る「光」を諦めない。
それが秋山の心に苦く突き刺さった。


だから、どうしろって言うんだ?俺に。


ヨコヤを完膚なきまでに叩き潰したいと思う心と、
彼女の願いを叶えたいと思う心。

どちらも彼の中にある真実。


鬩ぎあう二つの相反する感情が秋山の心に重くのしかかっていた。


直の思いを受け入れるということは、
ヨコヤに一矢を報いる千載一遇の機運を逃すということであった。
それは今まで復讐の焔を身の内に抱きつづけた秋山にとっては
どうしても受け入れがたいことだった。
今の自分にならヨコヤを底まで貶めることなど簡単にできるはずだ。
なのにそれを彼女が邪魔をする。
清廉な思いを盾へと変えて、直は秋山とヨコヤの間に立ちはだかろうとしていた。
その為に自分の綺麗な羽をもがれようとも厭わない決意を露にして、
直は真摯な瞳を秋山へと傾けた。

『ダウト一億。』

きっぱりと言い切る直の声が聞こえる。
その度に秋山の心臓が早鐘をうつように高まった。
何が彼女をここまでさせるのか秋山には分からなかった。
こんな状況でも綺麗に輝く彼女は、火の国側のカメラを見据えながらきっぱりと言った。


『次はヨコヤさんが来て下さい』


「あのっ、馬鹿っ!!!」


直の言葉に秋山は思わず激昂して立ち上がった。
こんな自分の為に己の身を犠牲にして立ち向かおうとする彼女に心底腹がたった。
秋山がこのゲームから救いたかったのは神崎直だ。
救えなかった母の代わりにせめて直だけは助けてやりたかった。
そんな自分の気持ちを無視して、自らを危険に晒すようなことをする彼女の気持ちを図りかねた。
何故?どうして??そんな疑問の言葉だけが空しく頭の中を空転していた。
秋山はぎりと、唇をかみモニターを見つめる。
真っ直ぐな瞳でヨコヤを待つ直の姿が、秋山の目に凄烈に映し出されていた。
それはさながらこれから開く地獄の門の前に1人たたずむ天使のような風情だった。




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