ゲームが終わりを告げた時、

秋山の中に芽生えた感情が彼に最後の「嘘」をつかせる。

「神崎直」という綺麗な花を手折らないようにする為に

秋山は最後の嘘を…つく。

「秋山さん、終わりましたね」

輝くような笑顔を浮かべて直は秋山の元へと駆け寄った。

綺麗な瞳が嬉しそうに緩んで彼を見上げる。

これで見納めか。

直の笑顔を見つめながら秋山はくすりと苦い笑いを漏らした。

彼女を此処から解放してやる時がようやく来た。

後は自分の中に残る未練をどうにかすればいいだけだった。

芽生えた絆を断ち切る決心をすればいいだけ…。

それだけのことだと秋山は無理に自分に言い聞かせた。

「秋山さん…？」

どこか遠い目をして自分を見つめる秋山を直は不思議そうに覗きこんだ。

秋山はそんな彼女を心配させないように笑ってみせる。

胸の中にある「決意」を決して直に悟られないように、秋山は平静を装った。

そして優しい嘘をつく。

「ああ、悪い。終わったな…全部。これでお前の心配事もなくなる、」

「全部、秋山さんのおかげです！ここまで私を助けてくれてありがとうございました」

「もうこんなゲームに二度と関わるなよ？」

少し声色を落として秋山は注意を促した。

直はえへへと頭を掻きながらばつが悪そうに秋山に向かって頷く。

直の後先を考えない猪突猛進な行動に何度頭を抱えたことだろう。

あまりにも正直で、あまりにも真っ直ぐな彼女だけに、色々と心配はつきない。

秋山は大きく溜息をつきながら言った。

「説得力のない返事だな…。いいか？ちゃんと約束してくれ、

今後、変なことに絶対に首を突っ込むな？わかったか？」

まるで子供に言い聞かせるように告げる秋山をきょとんとした表情で見た。

「はい…気をつけます、けど秋山さんなんか変ですよ？」

「何がだ？」

「なんだかもう会えなくなるみたいです…」

くったくなく言う直に秋山は静かに微笑んでみせた。

「ばーか。そんなこと言う暇があったら自覚してくれ、色々と……」

わざと呆れたように言い放つ秋山に向かって直は大きく頷いた。

「分かりました。努力します。」

直は明るい声でそう告げた。心が浮き立ち自然と顔に笑みが零れる。

ライアーゲームは終わった。

もう、秋山の心に傷をつけるような出来事は起こらない。

それが直には一番嬉しいことであった。

眩しい笑顔を振り撒きながら直は秋山へ手をのばし、腕を遠慮がちに掴んだ。

「ん？」

秋山が覗き込むように直を見つめる。

いつもの優しい瞳に直は安心するように顔を綻ばせた。

「秋山さん、今日家によってください。」

「これから…？」

「はい！！前から言ってたご飯、今日こそは食べていってください。私…おいしいの作りますから！」

力を込めていう直の熱っぽさは相変わらずだった。

1回戦の後にも同じことを言われて無理矢理家まで連れて行かれたのを思い出す。

妙な力説に根負けして、というよりがっちりと腕をとられて逃げ出せなくて

部屋までいってみればゲームの2回戦の案内状がきていてそれどころではなくなった。

その時のリベンジにでも燃えているかのかのような彼女の様子に秋山は思わず吹き出した。

「お前、力入りすぎ…」

いたずらっぽい眼が直を捉えたかと思うと、すかさず額を指で弾かれた。

「いたっ、」

「……行くぞ。」

「え？？」

「お前の家」

秋山はそう言うやいなや、直の腕をとった。そしてそのまま指を絡めて深く彼女の手を握りこむ。

いきなりの出来事に直は驚いて秋山を見上げた。

そのあっけにとられた表情が愛らしくて、またいとおしさが込みあがる。

本当に自分はこの温かさを手放すことができるのだろうか？

自問が尽きることがないままに秋山は直を連れて歩き始めた。

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