ライアーゲーム3回戦終了。



直の支えによって自分を取り戻した秋山は見事な逆転劇を演じて見せた。
常の彼が備えている狡猾なまでの大胆さはヨコヤの力を圧倒した。
直への想いを糧に戦った秋山を前にヨコヤ達「火の国」はもろくも敗れ去った。

そんな死闘といってもおかしくはない過酷なゲームを制した秋山と直は
事務局が出してくれた送迎の車の中にいた。
並んで座る秋山の顔を直はそっと仰ぎ見る。
ヨコヤによって思い出したくない「過去」を抉り出され、
極限まで追い詰められた彼の顔には疲労の色が浮かんでいる。
そんな秋山の手に直はそっと手を添えた。

「なに…?」
半分意識を飛ばしかけていた秋山は瞳を開けて直の方を見た。
「秋山さん、大丈夫ですか?」
「ああ、少し疲れただけだ。」
直を安心させるように優しくそう告げる。
けれども彼女は納得しないような表情を浮かべた。
「ホントですか?」
疑るような眼を傾けられて秋山は思わず苦笑した。
そんな彼を見て直は不満そうに口を尖らせた。
「秋山さん、真面目に答えてください!」
「真面目って…、真面目に答えるけど大丈夫だ。ありがとう」
その言葉でやっと納得したような直はほっと一つ息を吐いた。
解放感が一気に全身に満ちる。
ようやく終わった。。。
そんな思いが直の中で溢れた。

「あれ?」

平衡感覚がおかしくなっているのを直は感じた。
身体に力が入らない。
直はなすすべもなく、そのまま秋山の方へと倒れかかった。

「どうした?」
異変に気が付いた秋山は直の顔を覗き込んだ。
すると呆然とした様子の直はくしゃりと顔を歪ませて訴えた。

「身体に全然力がはいらないんです〜」
「………は?」
泣きそうな声で告げる直は秋山に縋ろうと手を伸ばすがそれは全く動かず
バランスを崩した直はそのまま前のめりに倒れこんだ。
「きゃっ」
「直っ!」
床へと転げ落ちそうになる寸でのところで秋山は彼女の身体をつかまえた。
本当に力が抜けてしまっているらしく、
くたりとしなだれかかる直を秋山はそっと支えてやった。
そして彼女の肩へと腕を廻しぐいと自分の方へ引き寄せる。
直は驚いたように秋山を見つめた。
「秋山さん」
「緊張してたんだろ…ずっと。それが解けたからこうなったんだ。気にしないでもたれとけ。」
「でも…運転手さんに見えてます!」
直のとんちんかんな物言いに頭を抱えたくなった。
秋山は一つ息をつき、彼女の方を向きながら言った。
「こうでもしとかないとお前、車の中転げまわりそうで怖いからな」
「転げまわるって…」
「…実際落ち着きないし」
「ひど〜い!!」
抗議の視線をぶつけてくる直を秋山は面白そうに見つめていた。
「まったく、お前といると飽きないよ」
「秋山さん」
「あまりにも色々やらかしてくれるからな、最初はどうしてやろうかと思ったんだけど…、
今は次に何をやらかしてくれるのか楽しみでしょうがない」
「秋山さん、」
妙に嬉しそうに語る秋山を直は訝しげな瞳で見つめていた。
あまり褒められているような感じがしないのは何故だろう?
ふに落ちない様子の直に秋山は今度は強くいった。
「外野のことは気にするな。疲れているんだからこのまま休め」
「…はい」
「ついたら起こしてやるから」
秋山に促された直は言われるがままにその瞳を閉じた。
それを秋山は満足そうに見つめていた。



「直…、おい、起きろ」
低い声が耳元で響く。直はぼやけた意識の向こうでその声を聞いた。
「おい、」
誰かの手が身体を揺らす。しかし直はその手を無造作に振り払った。
この心地よい温かさから抜け出したくない。
直は無意識のうちにその場所へとしがみついていた。
そこへトドメの一言が突き刺さる。
「こら、バーカ、起きろ!!」
「はっ、はい!!」
いきなりの大声にがばっと身を起す。
するとくすくすと微かな笑い声を漏らしている秋山と目があった。
「あ…きやまさ…ん?」
「ゆっくりお休みのところ悪いんだがな、着いたぞ」
「あたし、あの後ねちゃったんですね…ってあたしぃい!!!」
直は自分が置かれている状況に目を白黒させた。
秋山の肩にもたれて眠っていたはずがいつのまにか彼の膝を枕にしていた。
心地よいと思って縋りついたのは秋山の…。
パニックに陥った直は電光石火のスピードで秋山から離れた。
顔を真っ赤に染めてうつむく直の前に秋山はするりと手を伸ばした。
「膝枕のことだったら気にしなくていいから。」
「秋山さん」
「お前もしてくれただろ…俺に。だから気にするな」
「…はい」
秋山にそういわれ、差し出された彼の手を取り車を降りる。
そろりと大地に足をつけた瞬間、いきなり膝から力が抜けた。
「あれ…?」
「どうした?」
「なんか力が入らなくて。でも大丈夫です!ちゃんと歩けますから」
これ以上秋山に心配をかけたくなくて直は明るく言った。
さっきしっかり休ませてもらったんだから大丈夫なはず…
そんな暗示をかけながら直は再び歩き出そうと足を踏み出した。
しかし身体に根付くはずの力が入らない。
まるで糸の切れた人形のようにかくんと直はその場にへたりこんでしまった。
「直!!」
「大丈夫です〜ほんと、大丈夫ですから」
「それのどこが大丈夫なんだ。ほら、乗れ」
「…え?」
直の眼前には秋山の背中があった。
「あっ、秋山さん!?」
「いいから乗れ」
有無を言わせない強い口調で促されて直は秋山の肩へと手を伸ばした。
「ちゃんと掴まってろ」
「はい」
秋山はそのまま直をおぶり、ゆっくりと歩き始めた。
直は戸惑いながらも秋山の背中へとその身を委ねる。
思ったよりも広い彼の背中から感じる体温に直は安らぎを感じた。
「秋山さん、」
「ん?」
「秋山さん、あったかいです…」
目を伏せながらそう告げる直に秋山は微かに微笑んだ。

彼女といると温かい。
これをもう二度と失いたくはない。
それが今秋山が願うたったひとつのことだった。
同じ思いを交叉させながら、二人は夜の帳の下りた道を歩いていった。



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