声にならなくても、
思いが時には伝わらなくても・・・



「いい加減、人を疑うことを覚えろ!!」

腹立たしかった…彼女が。
こんな最終局面まできても尚、人を信じることをやめない彼女、
騙されて奈落に落ちようとしているのに
それでもまだ自分を信じようとする神崎直。

その信頼が重たかった。
自分は決して彼女が思うような人間ではない。
心に深く入り込んだ闇は決して拭えはしないのだ。
もう、自分を光へ導こうとするのをやめてほしい。
秋山は氷の眼差しを直へと傾けた。
くちびるを引き結んだ彼女はそれに怖気づくこともなく秋山を見据え、
そして彼の頬を平手で打った。

「人を疑うぐらいなら騙された方がましです」

どんな状況におかれても見失うことのなかった思いを強く言葉にのせた。
直は涙が零れそうになるのを必死で堪える。
泣いてはいけない。
弱いままの自分では秋山の心を響かせることはできない。
そう言い聞かせ、直は強い目で秋山を見つめた。
曲げることの出来ない決心が直に勇気を与えていた。

私は、負けない。

直は秋山を救いたかった。
ライアーゲームを戦うことで傷ついたのは
むしろ秋山の方であることを直はずっと感じていた。
秋山の抱える闇は彼を容赦なく傷つけ、戒め続ける。
これを解き放つには、自分がライアーゲームで彼に勝利するしかない。
天才詐欺師・秋山深一に馬鹿正直だけが取り柄の自分が勝つことなど
途方もない夢物語だと思う。
けれど、直は戦う決意を固めた。
秋山の心を解き放つために、もう誰にも彼を傷つけさせないために
その思いの力を刃へと変え、直は戦いを挑もうとしていた。

「私は秋山さんに勝ちます。」
「…なに?」
「負けませんから」

光を帯びた眼差しが深く秋山を見つめる。
言の葉の持つ大切な思いが揺れながら、二人を包んでいた。




END
2009.12.31るきあ
今年最後のSSです。ありがとうございました。


ブラウザを閉じてお戻りください。