「俺がそいつと接触して確かめる。」

味方として名乗り出た牧園を信じる
神崎直の思いを秋山は感じ取っていた。
彼女の辞書に「偽善」という言葉ない。
ただまっすぐで
清廉な魂だけを武器にライアーゲームを戦う直。
その気持ちを守りたいと思った。
信じたいとも思っていた。

しかし、葛城リョウにそれは通用しない。
彼女を深く知る秋山に本能が危険を告げていた。

「秋山さん!!」
直を横目に秋山は牧園と接触した。
嫌な機械音が辺りに響いた。

「秋山さん、なんで!!」
「確認してくる。」

直の顔が視界に映った。
大きな瞳が不安げに潤んでいる。

そんな顔するなよ。


ひとりごちながら秋山は十字を装飾された扉を開けた。
瞬時に映し出された映像は、
やはり彼女の気持ちを踏みにじるものだった。

「秋山さん、どうだったんですか?」

駆け寄ってきた直には答えず、秋山は牧園の元へと歩みを進めた。
秋山は悪鬼のような表情を浮かべ、
氷のような眼差しを彼へと傾けた。

「お前、残念だったなぁ」
「な、なんですか!?突然。」
「神崎直の与えた最後のチャンスをお前は棒に振ったんだ」

身体の奥から湧き上がってくるこの気持ちはなんだろう?
いつから自分は彼女を汚すものを許せなくなったんだろう?
自分のしてきたことは目の前にいるこの男と
大して変わりはないというのに
今更、「光」を崇めても無駄だと分かっているのに
秋山は直の思いを護らずにはいられなかった。

「お前の負けはこれできまった。」
「え・・・?」
「俺が必ずお前を負かすからな」

秋山は低音な声が嘲るようにそう言った。
その様子を黙って見つめていた葛城が口を開いた。

「秋山くんは何故神崎直さんの名誉を守ろうとするのですか?」
「黙れ」
「そんなに彼女がお好きですか?」

葛城の口元に鮮やかな笑みが広がった。
頭脳明晰・冷静沈着という言葉は秋山の為にあったようなものなのに
こんな感情に先走る女に骨抜きになるとは堕ちたものだ。

そんなにこの女を愛しいと感じるのならば、
自分にその恋情が向かないのであれば
いっそ神崎直を彼の前で滅茶苦茶にしてしまいたい
そんな嗜虐的な思いが葛城の中に生れていた。

「悪いか?」
「ええ、つまらないですね。それではただの男です。そんなあなたは私には勝てません」

嘲るように秋山を見つめながら葛城は言い放った。
秋山はくすりと笑った。

「つまらないか…結構だな。俺は絶対にお前に勝つ。光が俺を照らし続ける限りはな」
「戯言を言うのはおやめなさい。」
「戯言かどうかはゲームが終わってから言え」

秋山はそう言うと目前で繰り広げられた舌戦に
呆気にとられたままの直の腕を引いた。

「いくぞ」
「あっ、秋山さん。いっ今の会話、高尚すぎて全然ついていけませんでした」
「気にするな」
明らかに混乱中の直を落ち着かせるように、
そして自分を叱咤するように秋山は言った。

「葛城はミスを犯した。俺は、俺達は絶対に負けない」
「ミス?」
「ああ。光を軽んじるものに道は開かれない。」

幾多の人々が神崎直の光にふれて、彼女の前にひれ伏した。
優しい暖かな光の力は今も瑞々しく直を輝かせている。
こんな泥沼のような場所に咲く一輪の花・・・
自分はそれを守りたいと思った。

そんな彼女を蔑んだのは葛城の大きなミスだ。
報いはは必ず受けてもらう。
直の思いを無駄にしない方法で葛城を凌駕してみせる。

「光」を損なわせることのないように
「華」を枯らすことのないように




END
2009.12.16改訂版。



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