Il a ete sauve 1話



「パリ…ですか?」
「ああ、」

いきなりの展開に直は目を丸くした。
そんな彼女を尻目に秋山は涼しい表情を崩さないまま、話を続けた。

「心理学の学会でパリへ行く。お前の分も航空券用意しといたから一緒に行こう」
「・・・・・・え?」

常の彼からは考えられないような台詞に直の思考は止まってしまった。
ぼぉと頭に血がのぼり、顔が赤く染まる。
相変わらず分かりやすい直の様子に秋山はやれやれとばかりに肩を竦めた。

「お前、なんか変なこと考えてるだろう。」
「へへへへへ変なことなんて、考えてないですよ。ただ秋山さんがそんな風に誘ってくれるの
初めてだから、ちょっとびっくり・・・いえカナリ驚いただけです!」
むきになって言い返す直の額を秋山は指先で軽く弾いた。
「ばーか。お前を一人で置いとくと絶対トラブルをしょいこむにちがいないからな。
後々その処理に苦労させられるなら一緒に連れていく方がまだ楽だからな…」
秋山は呆れるようにそう言い放つと肩を竦めた。
この時の彼の心情はまさに言葉どおりのものだった。
日頃から何をしでかすか全く見当がつかない、
行動予測不可能な直を放置していくことなど秋山に出来るはずがなかった。
しかしよかれと思ってした決断が、
かの地パリで更なる混沌を巻き起こすことになろうとは
今の秋山には推し量ることもできなかった。






数日後。


「きゃーーー秋山さん、あれオペラ座!!すごーいきれーーい!!!!!」

秋山はテンションMAX状態の直に辟易していた。
パリに着いてからというもの、直は完全なる観光客へと変化を遂げていた。
少々疲労気味の秋山の様子などおかまいなしに
直は彼をパリ中の観光名所へと連れ回し、はしゃぎまくっていた。
まったく予測のつかない彼女の行動に
秋山は連れてきたことを後悔しはじめていた。

「君ねぇ、なんでそんなにテンション高いの?」
呆れたように言い放つ秋山に直はさらりと返した。
「だって秋山さんとの旅行ですよ!そしてパリ!もう楽しさMAXです♪」
にっこりと満面の笑みを浮かべる彼女にたいして秋山は返す言葉を失った。
馬鹿正直の直ちゃんパワーが明らかに増大している。
こうなった彼女にはもう誰もかなわない。
「あっ、秋山さん!あのエッフェル塔のチャーム可愛い〜♪」
「はいはい」
秋山はひとつ溜息をつくと、仕方がないというように直の後ろをついていった。




そしてもう一方。

「ふーろーまーじゅーーのかーおーりーーー♪おいしそう♪♪」

街角から流れてくるおいしそうな香りに誘われて
野田恵こと、のだめはふらふらと道路へ向かって歩き出した。

「ふろーまーじゅ、ふろーまーじゅ♪」

車が行きかう通りだということなど全くおかまいなしにフラフラと
車道を横切ろうとするのだめの腕を誰かの手がグイとひいた。

「こらっ!!のだめ!!!また食べ物につられてる!!危ないだろ」

彼女の腕を引いたのはこの前変態の森へと歩みを進めてしまった千秋真一だった。
のだめは千秋を認めるとにへら〜と口元を緩ませて笑った。

「だって千秋せんぱい、フロマージュのいい匂いがするですよ、
のだめ食べたいのですよ〜」
うっとりと告げるのだめを千秋は呆れ顔で見つめていた。
「お前、昨日も鬼のように食ってただろ?まだ足らないのか??」
「おいしいものはたくさん食べないと損しますよ、先輩。
でーもー先輩がろまんてぃっくにチューとか〜してくれたらのだめ食べるのやめるですよ」
「は?」
「ん〜」
口を突き出し、キスをねだるのだめを千秋はむんずとつかみ上げた。
「この変態がぁあああああ」
華麗な投げが炸裂した。
あ〜れ〜という声をともにのだめの体が宙を飛んだ。
しかし、こんな二人でもれっきとした恋人どうしなのであった。


秋山と直、千秋とのだめ。
4人の運命の糸がもうすぐ絡まり始めようとしていた。


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2009.11.17るきあ


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