「で、昨日から食べてないんだったよな」
言いながら秋山は自分がかき回していた鍋を指し示した。
直は不思議に思ってなそれを覗くと、
中には見た目からしてほんわりと美味しそうな卵粥が出来上がっていた。
「美味しそう・・・」
食欲がなかった筈なのに、直は思わずゴクリと唾を飲んだ。
秋山はそんな彼女を見つめ、クスリと笑う。相変わらずの感情の豊さが微笑ましいと思った。
しかし、今は病人の彼女を気づかい、秋山は直の背を押してベッドへ戻るように促した。
「とりあえずお前は横になってな。出来たら持っていってやるから」
「はい、お待ちしてます♪」
嬉しそうに言う直を秋山は苦笑を交えながら見つめていた。




「できたぞ…」
土鍋を抱えてキッチンから出てきた秋山がベッドサイドに腰を降ろした。
出来あがりを楽しみにしていた直はワクワクした表情を浮かべて秋山を見つめた。
「早く食べたいです、秋山さん」
「まぁ待て」
はやる直を制止した秋山は茶碗にお粥をよそうと、スプーンでそれをすくって直の口元に差し出した。
「はい、あーん」
「あ、秋山さん!?」
常の彼では考えられない甘い行動に直の目は点になった。
その反応に秋山はニヤリと笑う。
確信犯的な気配を感じた直は口を尖らせた。
「秋山さん!酷いです〜、普通に食べさせて下さいよ〜」
「遠慮すんなよ、ほら」
秋山にもう一度スプーンを差し出された直は、覚悟を決めてぱくんとそれをくわえた。
「どう?」
「おいひいです」
お粥はしみじみとしていてとても美味しかった。
しかし秋山はどういうつもりでこんな行動に出たのだろう?
彼の真意がまったく読めない直へと再びスプーンが差し出された。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます…って秋山さん今日は何だか優しいんですけど何かあったんですか?」
直の問いかけにいたずらっぽく笑った秋山は彼女の頭をくしゃりとなでながら言った。
「一年に一回あるかないかの俺の気まぐれだから、ありがた〜く受けてくれ」
あくまでも上から目線の秋山の言葉だったが、
彼の優しさを感じ取った直は嬉しそうな微笑みを浮かべた。
そんな彼女を秋山は慈しむように見つめていた。


END
2007.8.12るきあ


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