「…終わらない」

気持ちがめげた直は虚ろな視線をさ迷わせながら、ひとつ溜息をついた。
近所の図書館までわざわざ出向いたというのに一向にはかどらないのは
あまりに山の様なレポートを前にうんざりする気持ちの方が大きかったからだろう。

ライアーゲームに巻き込まれたことが直の学生生活に大きな影響を及ぼしていた。
ゲーム中、気持ちの休まることのなかった直は大学にほとんどいかなかった。
その結果、出席日数と単位がおろそかになってしまうのは当然のことで、
大量のレポートを提出することを条件に
なんとか進級させてもらえるように秋山が大学側へ掛け合ってくれた。
そんな秋山の気持ちはとても嬉しかったのだが。。。
直は前に座って静かに本を読んでいる秋山をちらりと仰ぎ見た。


【黙っていると本当にかっこいいのに……】


そんな心の声が直の中で響いた。
最近の秋山の強烈な厳しさに直はほとほと辟易していた。
必ずレポートを提出させます。と固く大学側へ約束をした手前、
秋山は直の指南役としてレポート作成に付き合ってくれていた。
頭脳明晰な彼が手伝ってくれるなら間違いない!と
最初こそは喜んだ直だったが
それが大きな間違いだったと気がつくのに時間はかからなかった。

「おい…」

掠れた低い声が夢想している直の思考を遮った。
恐る恐る顔を上げると、秋山が厳しさを込めた目で直を見つめていた。

「はい…秋山さん、なんでしょうか?」
「何、じゃないだろ。手止まってる…」
「は。。。い」

冷たく言い放ち、秋山は直へレポートへと気持ちを集中させるように促した。
直は渋々原稿用紙と格闘を始める。秋山の目が光る中、直は必死でレポートを書いていた。

「やれやれ…」

秋山は苦笑を浮かべながらそんな彼女の様子を見つめていた。
直を手伝うと決めた時、甘い顔をしていては彼女の為にはならないと思った。
敢えて厳しさに徹底することを選択した秋山は
散漫になりがちな直を叱咤してレポートを書かせ続けた。
その甲斐あってか、あともう少しで全てが終わりそうなところまで仕上がってきている。
ただし、秋山は彼女にはまだまだレポートがたくさん残っているように思わせていた。
それは直が土壇場に力を発揮するタイプであることを熟知した秋山の計略だった。

「秋山さん、」

直の情けない声が耳元へと届く。
あまりにも自分が厳しすぎたせいなのか、怯えた瞳で直は秋山を見つめていた。
その様子に秋山は思わず笑いそうになるのを堪え、冷静に聞いた。

「何?」
「ここの、表現の仕方、これでいいですか?」
「どれ?」

遠慮がちに尋ねる直から原稿用紙を受け取る。
彼女らしい可愛い文字が目の前へと広がった。
あんなゲームを綺麗な心のままに乗り切った彼女の人間性は書く物にもよく現れていた。
とても理路整然としているとは言い難い出来なのだが、
直の慈愛に満ちた優しさの溢れる文章がそこかしこに展開していて好感が持てた。
これならうるさ型の大学教授達も納得するだろう。
実は秋山自身、彼女の文章を読むのが密かな楽しみとなっていたのだが
当の本人はそんな事実を露とも知らなかった。

「秋山さん、」
「いいんじゃないか…、お前らしくて」
「ホントですか!?」

久しぶりの褒め言葉に直の声が高らかに響いた。
瞬間、注意を促す咳払いが直の耳へと届き、彼女は「いけない」と舌を出した。
「秋山さんに褒められたの嬉しくて失敗しちゃいました」
「俺、別に褒めてないけど?」
意地悪く言う秋山に直は口を尖らせた。
「もう、秋山さん酷い!!」
「おいっ」
言った後にはもう手遅れだった。
直の甲高い声に図書館中の人々がいっせいにこちらを振り返った。
彼らの白い目が瞬時に二人へと突き刺さる。
気まずい雰囲気に直は額に汗を浮かべて誤魔化すような笑顔を向けた。
そんな逆効果を真面目に行う彼女に秋山は思わず頭を抱えた。

「出るぞ」
「え…?」

言うや否や秋山は直の手を取り、滑るように図書館を出た。
何が起こったかよく分かっていない直は目を白黒させながら秋山について行く。

「お前…もうちょっと空気読め…」
「すみません」

秋山は呆れる様に言いながらも繋ぐ手は離そうとはしなかった。
それが直には少し嬉しくて、もう少し強く秋山に触れたいと思った。
そして自らの腕を秋山の腕へと絡める。

「なんだよ、突然」

いきなりの行動に今度は秋山が面食らった。
驚いて思わず体を引く彼の腕へ、直は甘えるように身を傾けた。

「たまには、こうさせてください」

やわらかい眼差しが秋山を見上げる。
嬉しそうに緩んだ瞳があまりにも美しくて秋山は思わず見惚れた。
こういうことが天然で出来てしまう直に口惜しさを感じながら
秋山は小さな微笑みを口元へ浮かべた。

「まったく、お前の天然爆弾には毎度振り回されるよ…」

観念したように言う秋山は直の腰へと手を回し強くその体を引き寄せた。
そして早業のように自らの唇を直へと重ねる。
さらりと交わされた口付けに直の顔は瞬時に赤く染まった。

「あきあきあき秋山さささささん!!??」
「何?お前ちょっと面白いんだけど」

口をぱくぱくとさせる直を秋山はにやりと余裕の表情で見つめていた。
先ほど驚かされた礼だといわんばかりの秋山の反撃に直の頭は真っ白になった。

「。。。。。。。。。。。。゚(゚´Д`゚)゚。」
「顔文字みたいな感じで泣くなよ、」

勝ち誇ったように言う秋山は直の頭をぽんぽんと撫でてやった。
優しいのかそうでないのか、うまく飴とムチを使い分ける秋山をなんとなく恨めしく思った、

そんなある日の出来事。



END




10000打&管理人PC購入記念(笑)
ラブラブなのを読んでみたいと拍手コメで頂いていたので果敢にも挑戦。
そして失敗。・゚・(ノД‘)・゚・。 ごめんなさい。
基本的に微糖な味付けの中に甘さを表現するっていうのが好きなので
直接的ラブラブは結構苦手テイストかも。
これもぜんぜん甘くねぇヽ(´Д`ヽ)(/´Д`)/イヤァ〜ン
是、日々勉強です。今回のところはお許しを。。。

2007.6.28るきあ


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