『お前も、彼女に救われたんだろう…、秋山深一。』



ライアーゲーム主催者ハセガワの言葉が胸に突き刺さる。
憎悪の対象であったはずのヨコヤを赦し、ハセガワさえも赦すことが出来たのは
すべて彼女が自分の中の憎しみを消してくれたからだった。

それに気が付いた時、むしょうに彼女に会いたくなった。
自身の純粋さと無垢な心で秋山を癒してくれた、
神崎直に。





「秋山さん?」

彼女との再会の時は意外にもすぐにやってきた。
ハセガワの居た病院に直の父親も入院していた。
たまたま父親の見舞いに訪れていた直との偶然の再会…、
明るい日の下で見る久しぶりの彼女の姿に秋山は思わず目を細めた。

「ひさし…ぶり。」

どんな風に彼女と接してよいのか少し戸惑った。
ゲーム以外の場所ではまったく関係を紡いでいないのだからそれも仕方がない。
そんな彼の様子を見て直はくったくなく微笑み、秋山を見つめた。
素直な瞳が嬉しそうに緩んでいる。
彼女が自分に寄せる無条件の信頼が伝わって秋山は思わず直から視線を外した。
いっときはこの信頼が重たいと感じたこともあった。
だが、今はそれがどこか嬉しく思える。
自分の心が素直に彼女を求めるのを秋山は感じていた。

「秋山さん、今日はどうしたんですか?誰かのお見舞い??」
「まぁ、そんなところ。」
ハセガワとの会見のことを彼女に告げる必要はない。
秋山は言葉を濁し、曖昧に答えた。
直はそんな彼になんの疑念を抱くこともせずに言葉を続けた。
「私はお父さんのお見舞いです。久しぶりにゆったり過ごすことができるんで
今はその時間に甘えてます。あっ、今日はもう帰るところなんですけどね、」
にこにことしながら一気にしゃべる直を秋山はただ黙って見つめていた。
常の彼もどちらかといえば物静かな方だが今日は輪をかけて寡黙に近い。
直は不思議に思って秋山の顔を覗き込んだ。
「秋山さん?どうしたんですか??今日なんかおかしいですよ」
天然な彼女の無遠慮とも言える言葉に秋山は苦笑を浮かべた。
これが「神崎直」なのだ。
鈍いようでいて、人の心の機微をすぐに見抜く。
綺麗な心の瞳で人を見る彼女だから、あんなゲームに参戦していても変わらずにいれたのだ。
ハセガワのような男にも「希少な存在」と言わしめた直は
今は穏やかな笑みを携えて秋山の前に立っていた。
「ばーか、そんなことないよ」
そういう風に返すだけが精一杯だった。
冷静を装いながら心が直へと傾いていくのを秋山は止められなかった。
「そうですか?だったらいいんですけど…ところで秋山さん、これからお散歩いきませんか?」
「散歩?」
「はい、この病院のお庭すごく綺麗でとっても気持ちいいんですよ。いい気分転換になります」
「気分転換って、なんかお前疲れてんのか?」
「私がじゃなくて秋山さんが、眉間に皺がよってますよ。」
くすくすと笑いながら直がそう言うと秋山は自分に額へと手を伸ばした。
その様子に直はいたずらっぽい瞳を輝かせた。
「嘘です!やった、ひっかかりましたね」
「……お前、」
直のからかいに秋山は思わず脱力した。
今まで見たことのない彼の様子を直は嬉しそうに見つめていた。
「秋山さん、いつも難しい顔してますから、ちょっとからかってみました。
でもよかったら本当に行きませんか?」
直の誘いに秋山はこくんと小さく頷いた。
どこかばつが悪そうな表情を浮かべたまま、彼は直についていった。


「気持ちいい〜♪」
海沿いにある庭を直は軽くのびをしながら景色を楽しむように歩いていた。
いまだ表情だけは憮然としたままの秋山は彼女から少し離れて歩く。
弾んだ足取りが正直な彼女の心を物語るようで、秋山にもそれが伝染しそうであった。
会話を交わす訳でもないのに、楽しいと感じる。
こんな心地よさは久しぶりで、秋山の固い表情は少しづつ解けて和んでいった。
そんな二人の前に1人の少年が姿を現した。
入院患者なのか彼女とは顔見知りのようで、直は少年に向かって大きく手を振った。
「あっ、コータくん…どうしたの〜??」
「お姉ちゃん、」
少年は悲しそうな表情を浮かべて彼女の元へとやってきた。
どこか思いつめた様子の彼を見て直は真剣な表情を浮かべてしゃがみこんだ。
「コータくん、」
「僕、また入院することになったんだ」
「…え?」
元気を失った声に直も呆然と反応を返す。そんな彼女を見て少年はニヤリと笑った。
「嘘だよ〜!!今日は検査、もうすっかり治ったよ」
「もう〜変な嘘つかないの!!」
怒ったような声色でいう直に少年はべーっと舌を出した。
「だっておねえちゃん、いっつも騙されてるんだもん、やーーい!」
からかうように言い放ち少年はそのまま駆け出していった。
後に残された直は憤然としてその場に立ち尽くしていた。
「はーーーーー、もうっ、」
思わず漏れた直のぼやきが聞こえる。
子供にさえも侮れてしまう純粋さに苦い笑いを浮かべながら秋山は言った。
「子供にまでからかわれてんのか?」
「秋山さん…」
「まったく、馬鹿正直だから騙されんだよ」
以前にも同じことを彼女に向かっていった覚えがあった。
出会いの時に、あまりにも人を疑うことを知らない彼女に対して
警告の意を込めて放った言葉だった。
けれど今はそれが彼女ならではなのだということはよく分かっている。
そして、次には言うのだろう。
あの言葉を…、




「馬鹿正直じゃあ…いけませんか?」



おずおずという彼女に向かって秋山は小さな笑みを傾けながら言った。

「いいんじゃないか、別に…」

その言葉を聞いた瞬間、直の顔に鮮やかな笑みが広がった。
まるで綺麗な花が咲いたような美しい微笑に秋山は思わず見とれた。
この眩さには抗えない。
ようやく彼女に対する自分の感情が何たるかを悟った秋山は
直へと向かって手を差し出した。


「そんなお前を俺は、ずっと見ていたいと思う」
「秋山さん…、」

今まで隠されていた優しさを瞳に込めて秋山は直を見つめた。
彼女がどんな風に生きるのか、どんな風に輝いていくのか、
それをずっと見ていたい。



「…好きだ」


はっきりと紡いだ言葉に直が顔を上げた。
瞬間、泣き虫の彼女の瞳から大粒の涙が転がり落ちる。
涙の意味が理解できなくて秋山は戸惑いながら彼女を覗き込んだ。

「泣くなよ、」
「だって秋山さんが悪いんですよ、突然こんな…、」
「ごめん。」

しゃくりあげながら言う彼女を秋山はその胸へと抱き込んだ。
そしてそのまま彼女へと口付ける。
もう、自分の感情を止められなくなっていた。
秋山の思いの溢れたキスは直の身も、心も溶かしていく。
秋山の熱情にうかされて直もまた彼を求めていた。

「お前の想いは綺麗だな」
「私の想い…?」
「純粋すぎて時たま困るけど、人を信じることのできる心がとても綺麗だ」
「秋山さん、」
「俺はそんなお前を守りたい……だから、」

秋山はふぅと柔らかい笑みを零しながら、直を抱く腕に力を込めた。
彼女の温かさが伝わってとても心地よかった。
この温もりを自分は欲していたのだ、ずっと。


「離れないでくれないか?」


心からの言葉を秋山は真摯な思いをこめて直へと告げた。
直は同意を込めて小さく頷く。

繋がった未来に思いを馳せながら、
二人はお互いの温かさを確かめ合っていた。





END








最終回11話にあたる部分をもう4回もみてます。
あうん、秋山さんかっこいい♪
秋×直度は少々薄めでしたけど、あんまり大っぴらにやられるより
さりげな〜くラビュな方がキュンキュンする〜。・゚・(ノД‘)・゚・。
これくらい想像の余地を残してくれている方が実は楽しいです。(創作者の本音)
とりあえずこれは最終シーンの捏造。
あの後こんな感じだったらいいな〜の妄想です。

2007.6.24るきあ


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